MOVEMENT

新版画

Shin-hanga
1915–1960s 日本 収録作家 14人

版元・渡邊庄三郎の店に、ひとりの外国人版画商が訪れた。明治末、浮世絵は既に過去の様式と見なされ、写真や石版画に押されて職人たちの技術も廃れかけていた。渡邊は、絵師・彫師・摺師が分業して一枚の版画を仕上げる江戸時代以来の制作体制そのものを救い出そうと考える。ただし絵の中身は江戸のままではいけない。輸出を見据え、欧米で人気を博していた印象派やジャポニズム後の趣味に合う、光と陰影を意識した新しい浮世絵を作ろうとした。これが新版画の出発点である。

浮世絵が版元の求める型に絵師を従わせる仕組みだったのに対し、新版画では画家個人の作風がより強く前面に出た。川瀬巴水は雪や雨に沈む日本各地の風景を、静謐な色の重なりで描き、旅情そのものを版画に変えた。吉田博は自ら渡米して自作を売り込み、西洋の油彩に通じる遠近感と色の階調を木版に持ち込んだ。橋口五葉や名取春仙は美人画・役者絵という伝統的な画題を踏襲しながらも、より写実的で内面を感じさせる表情を追求している。小原古邨は花鳥画に特化し、静物のような静かな緊張感を版画に定着させた。

この運動を支えたのは、写真や西洋絵画によって広まった写実への関心と、海外市場という新しい販路である。国内では既に古臭いとされた木版画が、輸出品としては逆に「本物の日本」として歓迎された点は皮肉でもある。渡邊をはじめとする版元は、彫りと摺りの高い技術水準を保ちながら、明暗のぼかしや繊細な色の重ねといった新技法を積極的に取り入れ、浮世絵とは異なる質感を生み出した。

新版画は戦後まで続き、海外の美術館や個人収集家によって多くの作品が守られてきた。今日これらを見るときは、江戸の型を残しながらどこが変わったかを探るとよい。輪郭線の柔らかさ、光の表現、そして一枚の版画にかけられた彫師・摺師の手数の多さに、職人技と個人の視点が同居する独特の魅力が現れている。

この運動の作家

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この解説は ArtNote 編集部が執筆しています。 誤りを報告する