表現主義
叫び声のような色彩と、歪んだ輪郭。ドレスデンで結成された「ブリュッケ」の若い建築学生たちは、目に見える通りに世界を描くことをやめ、内側で感じる不安や興奮をそのまま画面にぶつけた。エーリッヒ・ヘッケルやヴィルヘルム・モルゲナーの作品には、自然な色彩感覚を裏切る強い赤や緑、荒々しい筆致が見られる。彼らにとって絵画とは、外の世界の記録ではなく、心の状態を伝える装置だった。
この転換の背景には、急速に工業化し都市化するドイツ社会への違和感がある。人口が都市に集中し、機械のリズムが生活を支配するなかで、多くの芸術家は疎外感や神経の緊張を感じていた。さらに写真の普及によって「そっくりに描く」ことの価値は既に揺らいでおり、絵画は別の役割を探す必要に迫られていた。アフリカやオセアニアの彫刻、ゴッホやムンクの絵画も、単純化と誇張という手法に説得力を与えた。ミュンヘンで活動したアレクセイ・ヤウレンスキーやアウグスト・マッケは、色彩そのものに精神性を託す方向をさらに推し進めた人物である。
彫刻の分野でも同じ衝動が働いた。ヴィルヘルム・レームブルックの引き延ばされた人体は、写実的な均整を崩すことで、人間の弱さや悲しみをむき出しにする。第一次世界大戦を経て、この運動はより暗く、社会批判的な色を帯びていった。戦争の傷跡や都市の頽廃を描いた作家たちの仕事は、単なる様式実験ではなく時代への証言として読むべきものである。
表現主義が切り開いた「感情を歪みとして描く」という発想は、後の抽象表現主義や、アンゼルム・キーファーのような戦後ドイツの作家にまで及んでいる。会場では、色や形の「正しさ」を基準にせず、それがどんな感情の圧力から生まれたのかを想像しながら見るとよい。歪んだ線の奥に、当時の都市生活者の不安な視線が透けて見えてくるはずである。